月夜見

   “年の瀬の風景”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより

 

この日乃本という国は、
一年を通じて四季が巡る風土をしており。
南北の端っこ同士では随分と格差もあろうが、
それでも春は待ち遠しいし、
冬の到来には 何となくながらも
寒い季節を前にしての気構えのようなものが出ても来る。
グランドジパングはどちらかと言えば温暖な気候の土地なのだが、
それでも冬には雪も降るほどの寒さに襲われるので、
そんな寒さに負けないようにということか、
大雪には大根煮を食えとか、冬至にはユズ湯に入れとか、
節季ごとの行事や昔からの習わしが様々にあったりする。

 「あら、親分。見廻りですか?」

ご城下で春先一番最初の花まつり、
枝垂れ梅の観梅祭りを催すことでも有名な
シモツキ神社の境内へと上がって来た人影へ、
白い小袖に緋袴といういでたちの巫女さんが声を掛ける。
そちらは さすがに寒くなってきたのでと厚手の袷を着た背中へ
いつもの麦わら帽子を下げているのがちょっとした判じ物のような格好の、
小柄な、されどいつもお元気で頼もしい、
麦わらの親分こと、ルフィ親分で。

 「ああ。」

今年は早く来た割にいつまでも秋が続いたせいか、
境内の銀杏も散り尽してはおらず。
それでも空の色はすっかりと冬めいた素っ気なさを滲ませており。
閑とした青の中、黄色い葉を残した銀杏の御神木がそびえる様は、
もう師走なんだというせわしさを ちょっとだけ忘れさせてくれるよう。
似合わないとか言っては失礼ながら、
そんな柄でもない感慨にふけってでもいたものか、
ぼんやりと立ち止まってた姿に気がついた巫女さんは
実はこちらの宮司さんの娘さんでもあり。
社務所の表側、
お守りやおみくじを売るための窓口ようになって開いていた
障子戸のところからの、ちょっとばかし気軽なお声掛けだったのへ。
親分の方でも時に居住まいをただすでなく、
とたとたと歩みを運んでく。

 「あ、親分、南寺さんのところに寄って来なすったね。」
 「判るのかい? 凄いなぁ。」

巫女さんてのは神通力もちなのかと言わんばかり、
ルフィが おやまあとどんぐり眼をくりくり見張った見せたのへ、
そんなお道化ようが可笑しかったか“アハハ”と軽やかに笑ってから、

 「だって、いい匂いがするんだもの。あすこの“だいこ炊き”は有名だしね。」

実はあたしも昨日食べて来たと、こっそり耳打ちするお嬢さんだったりで。
お釈迦様が12月の8日に悟りを開かれたというのにちなんで
檀家の方々が持ち寄ってくださった山のような大根を
油揚げと一緒に甘辛のだしで煮込み、
参拝者に供して食べてもらうという“だいこ炊き”は
割とどこのお寺でも催される冬の行事だが、
この藩の場合はご城下の南にある大きな寺のが特に盛況であり。
それもまた冬至を前にした節気の習わしのようなものとして有名で、
日頃はそれほど信心深いわけでもないクチのお人でも、
ああ行かなくちゃと、一種の縁起物扱いでご利益にあずかろうとするくらい。
それがいけないことと咎められるようなことでなし、
神様を奉じておいでのこちらのお嬢さんでさえ、
堪能してきたと公言しちゃうほどの恒例な催事なのであり。

 「ここも忙しそうだな。」

年越しの境目を前にしてのあれこれで忙しいのはこちらも同じ。
初詣にお越しの信者の皆様が、
お参りしてからおウチへ持ち帰る縁起物やお守りの準備なのだろう、
作業用の長机を並べ、やはり巫女さん姿のお嬢さんたちが数人ほど坐していて。
白い手が手際よく動く先では、
赤や金銀の色紙や和紙に、組み紐や飾り物などがあれこれ取っ散らかっていて、
社務所の中は色とりどりに華やかだったりし。

 「まあね。絵馬にお守りに、破魔矢に熊手に。」

お札や御幣は 手伝えないけどねと彼女が眉を下げて見やったのはお社のある方。
そちらでは、神職であるお父上や親戚縁者の方々が集まって
朝早くから夜遅くまで、それは懸命に且つ、背条を伸ばしての厳かに、
ありがたいお札や絵馬、護摩焚きに使う護摩木へ
筆を走らせては墨の深色も鮮やかな詞を記しておいでだそうで。

 「ちなみに、護摩焚きっていうのはもともとお寺さんの習わしなんだけどね。」

というか、釈迦が入滅した後に生まれた“大乗仏教”の中、
バラモン教の習わしから取り入れられたものだそうで。
よって密教の修法とされ、おもに天台宗、真言宗で行われる。
それとは別口ながら、神道の神社でもお焚き上げをするそうで。
お勤めを終えたお札や縁起物を燃やしたり、
大切に使ってたものをむやみに捨てられない人のため、
焼くことで供養をするというもので。
そういうのにはなかなか縁がない人でも
お正月飾りを焼く、小正月の“どんど焼き”はご存知かと。
御祈祷やお祓いが必要なお札などへはお手伝いできないお嬢さんたちは、
こちらで縁起物を作るのに精を出しておいでなのだそうで。
純白の白木で作った破魔矢に、赤や緑の紐でお守りや絵馬や鈴を下げたり、
笹と組み合わせた熊手へ、金糸銀糸の縁取りもきらきらしい、
俵や宝船など縁起物の小物をくくりつけたりと、
こちらもなかなかにお忙しそう。
丁寧な手際で仕上げられてゆく破魔矢が一時置きの筒へトンと収められるたび、
結ばれた鈴が独特の音を立てる。

 「いい音だよな、あれ。」

出窓のようになってるところへ腹を凭れさせての乗り上げるようになって、
ルフィが無邪気に覗き込んだ先、
また仕上がった破魔矢が、
やや乾いたきゃららんという音とともに他のお仲間と一緒に立てられて。

 「そぉお?」

もはや一日中聴いている環境音になっておいでの彼女たちには
特にどうという音でもないらしかったが、

 「うん。奉納の踊りの時に持つ鈴のとも違うし、
  そうかってって、根付についてる小さい鈴のチリチリって音でもないし。」

日頃の中ではあまり聞こえない音だよなぁなんて、
妙なところへ感慨深くなっている、やっぱり柄じゃあないことを云う親分さんだったのへ。
ヤダねぇと可笑しそうに笑ったお嬢さん、
じゃあと思い立ったように立ち上がり、作業台の上から緑の緒が結ばれた鈴を1つ持ち上げる。

 「気に入ったのなら差し上げますよ。」
 「え? いいのか?」

そんなつもりなんてなかったところ、
お顔の真ん前へきゃららんと下げられた金色の鈴をどうぞと言われ、
一気にぱあっと嬉しそうになる現金さよ。

 「ああでも、親分さんが身につけていらっしゃると、
  猫の鈴じゃああるまいが
  岡っ引きの旦那が来たぞっていう 音の目印になってしまうかもしれませんねぇ。」

まだまだお子様ぽい作りの手のひらに、嬉しそうに転がしているルフィへ、
そんな風に先んじて案じてから、
何かしら思いを巡らせた末にうんうんと頷いて見せた巫女のお嬢さん、

 「失くしたら困るものとか、肌身離さないものへ付けとくといいですよvv」

特に他意もないまま、そうしておけば落としたら音で気がつくでしょ?と、
そんな無難なアドバイスを下さったものだから、

 「そか、そうだな。そうするよvv」

ありがとなと、それはそれは朗らかに笑ってお礼を告げ、
さあ見廻りの続きだと、
冬の陽に照らされて乾いた白にさらされた参道を駆けてく
無邪気な親分さんだったれど、

  大事なものっていうことで、
  どこかのお坊様にくくりつけたりしないようにね。(笑)











     〜Fine〜  15.12.09.


 *原作様に追いつき切れてない分、
  新キャラもいっぱい出て来ているので、
  巫女さんにはどなたか当てようかと思ったんですが、
  ドレスローザ篇て、王女様か
  癖のある人( ex,武器になる彼女とか)しか出てこなかったしなぁ。

  それはともかく。
  いつも奇遇を装って現れる誰かさんは
  ある意味、公安関係の人だから、
  師走は親分と同じくお忙しいので逢えない日も多いだろうしね。
  だからって、そんな目印つけたら、
  向こうさんだって本業で障りが出るしねぇ。(う〜ん)

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